
JR中央本線山梨市駅から歩いて5分ほどと、交通の便が良い立地の『いづ屋』。創業は昭和元年で、間もなく100年を迎えるという老舗の割烹・寿司店です。四代目店主の岩澤尚也さんは、都内の名だたる寿司店で腕を磨いてきた料理人。
「山梨、東京ということは意識せず、自分がいいと思うところを貫いていきます」という尚也さんに、寿司にかける情熱と山梨ワイン愛を語ってもらいます。

山梨県山梨市出身、1982年生まれ。18歳で料理の道に入り、2001年東京・銀座『久兵衛』で寿司職人としての修行を開始。その後もミシュランガイド掲載店である、西麻布『拓』ほかで修行する。
2012年に地元山梨市に戻り、昭和元年より続く家業の寿司割烹『いづ屋』を継ぎ、四代目店主となる
世代を超えて地元に愛される名店

「すし」という石碑を右手に、濃紺の暖簾がかかる玄関を入ります。2階建ての店内は広々としており、カウンターやテーブル席、個室、そして宴席などで使用できる大きな座敷もありと、地元の方に長年愛されている店であることが分かります。メニューもお決まりの寿司一人前セット、寿司会席のコース、一品料理と幅広く揃っています。



店内は100人以上も収容できるキャパシティーがあり、大勢でも、個人でもとさまざまな過ごし方ができますが、なんといっても尚也さんの握りが目の前で味わえる、対面カウンターの利用がおすすめです。
凛とした美しい寿司が口の中で優しくほどける

岩澤尚也さんが家業を継ぐために、山梨へ戻ってきたのは10年前。それまでは寿司界のトップクラスともいえる、銀座『久兵衛』、西麻布『拓』などで研鑽を積みました。その腕前は、一貫の握りを口に運べば、瞭然とします。魚の甘み、旨味が伝わり、直後にシャリがはらりと優しくほどけます。
そのバランスが絶妙で、口の中に幸せが広がっていきます。写真の握りは5日間寝かした銚子産の金目鯛で、ネタの上には自家製の塩昆布が乗っています。
「二口ぐらいは魚の身質を味わえるように、つまり魚がしっかりと噛めるようにしていまして、その後ハラリとなる握りを目指しています」と尚也さん。また握る魚のネタも魚体や部位ごとに熟成具合を見極め、シャリとピッタリ合うタイミングを計って握るといいます。

刺身で食すのと、シャリと合わせるのではまた違った熟成度があるという
尚也さんはそんな魚を自ら見極めるために、週に一度は東京の豊洲市場まで足を運び仕入れを行なっています。その日はなんと3時起き。車を飛ばして早朝の河岸へ、そして午前中には山梨に戻り、店に立ちます。「都内で働いていた頃から、仲買人の方にお世話になっていましたので、そのつながりがあります。同業の仲間達と情報交換もできます。そして何より全国のいい魚が沢山揃っていて、選び甲斐があります」と職人としての心意気を感じさせます。
一方でシャリについて伺うと、地元産のお米を使用しているとのこと。「ほどよい甘みと、味わいがある」という山梨のブランド米「梨北米」をメインに、秋田米などをブレンドして理想の味を追求しているそうです。南アルプス連峰と八ヶ岳より流れ出る清らかな水と、長い日照時間が、「梨北米」の美味しさを育みます。
恍惚の寿司とワインのマリアージュ

お酒類は、地酒の日本酒からワインまでラインナップされていますが、注目すべきはやはり地元山梨ワインの品揃えです。
「西麻布の『拓』で働いていたとき、ワインの勉強をしました。それからワインが好きになり、今はもっぱら地元山梨のワインに注目しています。ワイナリーを訪れて、醸造家や地元のソムリエと話すのが好きです」。
『西麻布 拓』は、ソムリエが寿司に合うワインを選んでくれる店。お客はワインと寿司のペアリングで開かれる新境地を求めて訪れます。『いづ屋』でも尚也さんの代になってから、ワインに力を入れるようになりました。「山梨のワインは美味しいものが多く、リストアップするのが難しいです」といいながら、本日の寿司に合うおすすめの1本として、「98WINEs」ロゼを挙げていただきました。
「甘み抑え目で、ロゼ感もある上にすっきりと切れます」尚也さんの言葉とともに、味わう1杯とお寿司は、極上のマリアージュを奏でてくれました。山梨ワインの奥深さとともに、寿司の新たな魅力も発見した気分です。
4代目店主の時折見せてくれる笑顔と、手間隙を惜しまず妥協のない仕事ぶりと。『いづ屋』では舌も心も躍る体験ができます。寿司とワイン、そのマリアージュを堪能したいならば、目指すべきは山梨の中心地にある『いづ屋』と確かに得心しました。
寿司割烹いづ屋
山梨県山梨市上神内川1606
TEL. 0553-22-0027
昼の部 11時00~14時00
夜の部 17時~21時(LO)
定休日 木曜日(祝日の際は営業の場合あり)/年末年始/その他不定休
URL:http://izuya-sushi.net
Interview&Text:Tomohiro Tsuchiya
Photo:Hiroyuki Jyoraku
画像 ©YAMANASHI GASTRONOMY&WINE