
なだらかな丘陵地帯に葡萄畑が続く、韮崎・穂坂地域に目指すレストランはあります。この地で20年ほど続く、フレンチレストランを営むのは山田真治シェフ。この地元の環境と、それが育む食材やワインを愛してやまないシェフに、山梨流のローカルガストロノミーや、2020年に発足した「ワイン県やまなし美食コンソーシアム」について伺います。

山田真治シェフ
山梨県甲府市出身、1964年生まれ。横浜調理師学校卒業。神奈川、都内のフレンチレストランで修業後、1993年に渡仏。パリのレストランで修行し、その後、シャンパーニュの『オステルリー シャトードフェール』に移り、当時MOF(フランス国家最優秀職人章)を取得したエリック・ブリファー氏に師事。帰国後、山梨県内のレストランで料理長を務めたのち、2003年韮崎・穂坂の地『キュイエット』を開店。
フランスの片田舎を感じさせる一軒家レストラン

紅葉し始めたブドウ畑の中を進んでいくと、畑の奥に赤い屋根、石積みの外壁に覆われた一軒家が見えてきます。まるでフランスのワイン産地にいるかのような雰囲気です。しかし振り返れば、日本を代表する雪化粧の富士山。なかなかない風光明媚な風景に、しばし立ち止まって見入ってしまいます。しかもそんなところで本格フレンチと現地のワインが楽しめる。否が応でも期待に胸が膨らみます。

穂坂地域は丘陵地帯になっており富士山や南アルプスが見渡せる

クラシックで落ち着いた雰囲気の店内、週末を中心に都内からのゲストも多く満席になる
エントランス周辺には季節の花々が咲き、ゲストを迎えてくれます。クラシックな造りの店内に入ると、大きな窓からは一面に広がるブドウ畑、その先に富士山が望めます。
「ヨーロッパのワイン産地にあるような、ブドウ畑の中の古民家をイメージしました。ブドウ畑越しに富士山が見える土地を、5〜6年かけて探しました」と山田シェフ。
シェフは生まれも育ちも山梨という生粋の山梨県人。地元山梨で、修行に赴いたフランスの片田舎の空気感をも感じられる場所を探し当て、「キュイエット」=「果物の収穫」を意味するレストランをオープンさせました。
そもそも料理の道を志したのは、幼い頃、家族で行った洋食屋の幸せな食事が原体験となっているのだそう。
「料理人になろうと思い、迷うことなく洋食の道へ、フレンチを志しました。都内などで働いたのち、本国へと修業に赴きました。初めは都会のパリで働き、その後、シャンパーニュ地方のレストランに移ったのですが、山々やブドウ畑の景色がどこか自分の故郷に似ていると思いました」
そして山田シェフを驚かせたのは、何もない田舎にも関わらず、師匠であるエリック・ブリファー氏の料理を求めて、中には自家用ヘリコプターで来店するゲストがいるなど、外国からもお客が絶えないことでした。
地元・山梨のここでしかできない味を追求
「美味しければ、交通が便利でない場所でもゲストにいらしていただける。地の食材を使って、ここでしか味えない料理を生み出して、さらにワインも地元のものをサーブする」。そのスタイルに魅了された山田シェフは、帰国後、東京などの都心ではなく、あえて自らの故郷を選んでお店を開いたのです。
地元山梨の野菜やフルーツ、山菜やキノコ、さらにジビエや川魚などの食材に、普段から目を配り、時に生産者の現場に赴き話し合うこともあると言います。
「食材の育っている環境や生産者の想いを反芻しながら、どんな味付けやメニューにしようか、コースの構成はどうしようかなどといつも考えています」
自らもレストランの前の畑で「ふじみのり」などのブドウを栽培して、シーズンにはつみたてを料理やデザートに使っているそうです。
山田シェフに、11月5日に山梨・韮崎で開催する「Open Winery 2022」のイベントでも提供する、この秋の旬を詰め込んだ一皿をご用意いただきました。
馬肉と洋梨を使った冷製のオードブルです。サイドには南アルプス市で栽培された甘く大粒の食用ほおずきを添え、仕上げに牛蒡のフライとムースを乗せて。
山田シェフ「お隣の長野が有名ですが、山梨にも馬肉の食文化があります」
地域の伝統的な食をフレンチの手法で表現した一皿は、馬肉の旨みをフレッシュな洋梨が包み込んで、とろけるような味わいでした。
ここ穂坂は日照時間が長く、ブドウ以外にもたくさんのフルーツが栽培されています。たとえば桃の季節には「桃の冷製スープ」が登場します。旬のなかでも一番良い時期に味わえるのは地元の生産者と直接契約しているから。最近よくいわれる「フードマイレージ削減」をずっと実践し続けてきたともいえます。

大型のワインセラーには山梨県産のワインがずらりと出番を待っている
料理とペアで楽しむワインについても山梨産のものを豊富にラインアップしています。
「もちろんボルドーやブルゴーニュといった王道のフランスワインも揃えていますが、国内でも県産のものにはとくに力を注いでいます」
山梨ワインはここ10年で品質が向上しているという山田シェフですが、その味わいをもっと多くの方に広めていきたいという想いがあるそうです。そのため県内に世界的に評価されるワイナリーがあることも刺激になると言います。
「ワインと料理は対になって、お互いに高め合っていかなければなりません。料理もそれに合わせてレベルアップすることが必要です」
ワインと料理に真摯に向かい合う山田シェフ。『キュイエット』が人気店である理由がわかります。そんなシェフの人柄に信頼を寄せるのは、ゲストばかりではありません。
「美食コンソーシアム」で山梨の食を盛り立てる
山梨県内のシェフのなかではベテランとなる山田シェフ。
いま、「山梨の食全体」を押し上げたいという願いで山梨県内のシェフたちに一体感が生まれているといいます。
きっかけは、2020年に県の呼びかけでスタートした「ワイン県やまなし美食コンソーシアム」でした。地元のシェフやソムリエが集まり、美食やワインのイベントを行い、県内外の人々に山梨の魅力を伝えるコミュニティです。シェフ同士、コミュニケーションを重ねる中で、普段付き合いのない生産者のことを知ったり、ジャンルの違う料理人たちと交流することで、互いに刺激が生まれる関係になっているそうです。山田シェフはその中核を担います。

韮崎インターから車で5分ほど、韮崎駅からタクシーで10分ほどとアクセスもいい。
丁寧な仕事ぶりに多くの人に愛されているフレンチの名店
美しい環境、情熱のある生産者、世界的なワイン、そしてその土地を愛して腕をふるうシェフたちが合わさって、山梨ならではのローカルガストロノミーが生まれていきます。
山梨ガストロノミーを表現する『キュイエット』の一皿を体験するために、穂坂の地を訪れてみてはいかがでしょうか。
フランス料理キュイエット
山梨県韮崎市穂坂町三ツ沢1129
TEL.0551-23-1650
昼の部 11時30~13時30(LO)
夜の部 18時~20時(LO)
定休日 火曜日(祝日の際は営業、翌日休業)/年末年始/その他不定休
画像出典:YAMANSHI GASTRONOMY&WINE