山梨の自然が育む極上のクレソン畑へ つくるひと、料理びと、食すひとを繋げる『やまなし美食コンソーシアム』

やまなし美食コンソーシアム クレソン畑で収穫を楽しむシェフたち ©YAMANASHI GASTRONOMY&WINE

雪化粧をした雄大な富士山を背景に、せせらぎの音が聞こえてきます。今回『やまなし美食コンソーシアム』のメンバーである地元山梨県のシェフたちが向かったのは、富士山の湧水を利用したクレソンの畑。透き通る綺麗な水の中から、生き生きと葉を広げるクレソンを前に、シェフたちは嬉々として収穫、そして試食、生産者と語らいながら、料理の構想を練っていきます。

日本一の水と太陽が育む山梨の食材

山梨県富士吉田のクレソン畑 ©YAMANASHI GASTRONOMY&WINE

山梨県には富士山や南アルプスなどの高峻な山岳があり、その地形と森林が綺麗な水を豊富に育むため、ミネラルウォーターの生産量は日本一。また、甲府盆地をはじめ日照に恵まれた地帯もあり、日照時間の長さも日本一です。

そんな水と太陽がもたらす恵みは、生産量日本一のブドウ、桃、すももが代表するように、たわわに実るフルーツ、そして質の高い野菜。さらにブドウの絞りカスを飼料として育つ「甲州ワインビーフ」をはじめ、「甲州富士桜ポーク」「甲州地どり」などブランド食肉をも生み出します。また、豊富な湧水はキングサーモンとニジマスをかけ合わせ、山梨県が開発した「富士の介」といった養殖魚を育んでいます。

山梨県富士吉田のクレソン畑 畔とクレソンの間にわざと水路をつくり、虫がなるべく入らないよう工夫している ©YAMANASHI GASTRONOMY&WINE
畔とクレソンの間にわざと水路をつくり虫がなるべく入らないよう工夫している

そしてスーパーフード並みに栄養価に優れた香辛野菜「クレソン」も、まさに豊富や湧水と太陽が育てるものです。クレソンは明治時代に西洋からもたらされましたが、山梨県では昭和期に本格的な栽培が始まり、夏を中心として道志村や富士吉田市、忍野村、都留市などで栽培されています。そして富士山周辺の温度差を利用して、冬季は静岡側で栽培をするなど、通年収穫をしています。富士山の伏流水を利用したその味わいは、市場でも高い評価を受けており、なんと山梨県の生産量は日本一です。ブドウや桃は有名ですが、実はこのクレソンもそうなのです。

シェフ達が生産者の想いを受け取る

山梨県富士吉田のクレソン ©YAMANASHI GASTRONOMY&WINE

「見てください!このつややかでみずみずしいクレソン!水が清らかで、量も多い、富士山の恵みですよね」とシェフ達が話し合っています。この日、『やまなし美食コンソーシアム』のメンバーであるシェフたちが集まったのは、富士吉田市のクレソン畑。

そして迎えてくれたのは、クレソン栽培で、この道36年という畑のオーナーです。年間を通じて、場所を変えながら、無農薬・無肥料の自然栽培でクレソンを栽培しています。

クレソン畑のオーナーは「渓流でイワナを釣り、囲炉裏で焼いて食べるような山暮らしに憧れて」山梨へ移住 

都内から脱サラをして山梨県に移住したというオーナー     。「自然が好きだから、地球にいい方法で農業をやりたいと思ったのです。それで無肥料、無農薬での栽培を心掛けています。水と太陽、この土地の力で育ったクレソンです」。自然栽培は環境を整備することが不可欠。害虫と益虫のバランスを良くするなど、苦労を重ね、数年かけて畑を整備していったと言います。

やまなし美食コンソーシアムのシェフたち キュイエット山田シェフ ©YAMANASHI GASTRONOMY&WINE
裸足で畑の中へ、夢中になって収穫するシェフたち

オーナー     が     説明後、「どうぞ、ご自分で収穫してみてください」と声をかかると、早速、裸足になり畑に入っていくシェフたち。畑は水田のようになっており、ひんやりとした清らかな水、それにズブズブと泥に足が取られます。「わ!ここで倒れたら大変!」冗談を言いながらも、立派なクレソンを前に躊躇せず、どんどんと歩みを進めていきます。

畑の中でもぎ立てのクレソンを試食 キュイエット山田シェフ ©YAMANASHI GASTRONOMY&WINE
畑の中でもぎ立てを試食。ピリリとした辛味はワサビと同じシニグリンという成分による

「質の高いクレソンですね。辛味が柔らかくて、優しい味がします。クレソンは水が命と言われていますが、この富士山の湧水ゆえに豊かな味がするのですね」とは山梨ガストロノミーの先駆け敵存在であるフレンチ『キュイエット』の山田シェフ。「うん、これはいい。和食にも上手く合わせてみたい」と山梨の寿司割烹『いづ屋』の店主岩澤さんも相槌をうちます。

山梨県富士吉田市のクレソン畑オーナーと会話するキュイエット山田シェフ ©YAMANASHI GASTRONOMY&WINE
生産者の想いを受けて料理人の熱量もヒートアップする

畑を前に生産者     とシェフが、栽培方法や季節による味の違いなどを話し合います。「僕はフレンチをやっているので、馴染みのある食材ですが、ここのクレソンは本当に質が高いですね。水の管理など大変ではないですか」と山田シェフ。「水が枯れたことはありません。富士山のおかげでしょう。クレソンは今、この秋が葉を食べる旬で、春には4片の白い花が咲きます。エディブルフラワーとして使ってもいいのではないでしょうか」とオーナー     。お互いに、相手の仕事を想っての会話が続きます。

素材の持ち味を活かし、自らの独創を加える

クレソンとブドウジュレのサラダ ©YAMANASHI GASTRONOMY&WINE
クレソンとブドウジュレのサラダ。山梨と言ったらブドウ。
酸味がクレソンの辛味をほどよく抑えてくれる

クレソンとバターのペースト ©YAMANASHI GASTRONOMY&WINE
クレソンの緑色を活かしてバターに練り込んだもの。
クリーミーながら爽やかな味わいを感じさせる

クレソンのコンソメスープ ©YAMANASHI GASTRONOMY&WINE
クレソンのコンソメスープ。
熱が加わると辛味がひき、歯応えの良い葉野菜のようになる

この日はオーナー     の奥様が、クレソンを使った多彩なメニューを振る舞ってくれました。写真はその一例ですが、フレッシュなものを料理の付け合わせとして使う以外にも、たくさんの料理方法がありました。「サラダや薬味はもちろん、クレソンには油味を和らげる効果があるので、肉なんかにもよく合いますよね。加熱すると味わいや食感が変わり、違った使い方ができます」。シェフと奥様が盛り上がります。

『やまなし美食コンソーシアム』とは

前列にクレソン畑オーナー夫妻ら生産者が。後列は『やまなし美食コンソーシアム』のシェフたち。左から『可不可KAFUKA TOKYO』の宮下大輔シェフ、『キュイエット』山田真治シェフ、『忍野八洲』店主天野洋喜さん、『いづ屋』店主岩澤尚也さん ©YAMANASHI GASTRONOMY&WINE
前列にクレソン畑オーナー夫妻ら生産者が。後列は『やまなし美食コンソーシアム』のシェフたち。左から『可不可KAFUKA TOKYO』の宮下大輔シェフ、『キュイエット』山田真治シェフ、『忍野八洲』店主天野洋喜さん、『いづ屋』店主岩澤尚也さん

水と太陽の恵み、生産者の手間暇を惜しまない仕事が合わさって、極上の食材が生まれます。それを預かる料理人は素材の持ち味を活かしつつ、自らの独創性を加えて、ゲストにプレゼンテーションをしていきます。

そのアイデアを生み出すためのきっかけや、生産者の情報をいただくのに、同じ山梨県でレストランを営むシェフ同士のコミュニティが一役買っています。その代表的な組織が『やまなし美食コンソーシアム』。現在、県内で活躍するシェフとソムリエ8名で構成されおり、同じく山梨県出身で、都内でレストランをプロデュースする宮下大輔さんがアドバイザーを務めます。

『やまなし美食コンソーシアム』は定期的に県内の生産者やレストラン、ワイナリーなどを訪問しています。

「やはり生産者と料理人の両輪が機能していくことが大切だと感じています。お互いにコミュニケーションを取りながら、刺激し合うような関係が大事で、そこから生まれるものは大きいです」と宮下さんは言います。

さまざまな輪が重なり刺激し合い、美味なる一皿が完成します。そして、それを味わうゲストの喜びが生まれます。ここ山梨では、そうした輪をさらに広げていこうという動きが近年活発になってきました。

「ワイン県」と名乗りを上げた山梨。しかし、ワインだけでなく、ワインとともにある食も盛り上げていこう、という志を持った山梨にゆかりあるシェフたちの活動をお届けしました。水と太陽の恵みがもたらす喜びがさらに大きくなっていく予感がします。

取材日:2022年10月25日

画像:YAMANASHI GASTRONOMY&WINE